「柚子さえあれば」

生まれたときから柚子で育ってきた。
何を食べるにも柚子は必須だったし、風邪をひけば柚の酢とはちみつ、都会に暮らした二十数年間も冷蔵庫に柚子酢を切らしたことはない。柚子がなければ多分私の食生活は破綻するのである。柚子のない暮らしなど考えられない。
以前、オーストラリアで原住民の食生活につ いて取材をしたことがある。彼らは意外なものからビタミンCを採っていた。森の大木にたかった緑蟻の尻をちぎって木の棒ですり潰す。 水を入れれば正真正銘柑橘の味。砂糖を入れればレモネードだ。恐ろしいことにちょっと柚子にも似た味だからアボリジニの知恵はすごい。
ホテルで自称日本びいきのシェフが「ジャパニーズ寿司」を作ったので感想を聞きたいと言う。それはビネガーで煮込んだような巻き寿司で本当にまずかった。しかし、それでも柚子さえ効いていればなんとか食べられるのになぁと思うのは、やはり「どーいたち」私が土佐人だからだろう。

(渡辺瑠海)